小中千昭さんインタビュー(5・最終回)

――和哉さん（映画監督で実弟の小中和哉氏）とは昔からずっと仲良くやってこられてますね。

小中：いや仲悪かったんですよ。年子なもんで、年子っていうのが一番タチの悪い兄貴風を吹かせるみたいなんですよ。それで彼は中学入ってからは自分でやるようになって。
　もちろん口も聞かないほど仲悪いわけではなくて、和哉が自主映画時代に作った『地球に落ちてきたくま』なんかは私は特殊メイクをやってますけど、内容に関しては何も言わなかったし。商業デビュー作の『星空のむこうの国』の時も、ちょっと何か言ったかもしれないけど基本的に「ああ、良くやってるな」っていうスタンスだったですね。
　高校大学までずっと別々で、二人で仕事っていうか一緒に物作るようになったのは二人が社会人になってしばらく経ってからですね。

――本格的に一緒にやったのは『くまちゃん』が最初ですか。

小中：その前に酒井法子さんの『WHITE GIRL STORY』というビデオがありまして、これはアメリカでロケした１時間弱のビデオ撮りの作品なんですけど、これが後の『ドラッグレス』の前身とも言える、やはり擬似ドキュメンタリーなんですよ。酒井法子さんがアメリカに写真集を撮りに行ってという話で、ほんとの事務所のプロデューサーとかマネージャーを役者にしてて、当時酒井法子さんがその作品を観て「恥ずかしくて観てられない」って言ったんです。つまり芝居してない、素が出ちゃってるんですよ。でもこっちからするとそれが面白くてしょうがなかった。その当時はリアルだから面白いっていうことに強い関心を持っていた時期なんでそういうことやったんですね。

――その『WHITE GIRL STORY』で和哉さんと組むきっかけは。

小中：和哉が声掛けてくれたんです。和哉はその前も酒井さんのビデオをやっていたんでその流れで来た仕事で。なんで私に話が来たのかは、まあ『邪願霊』とか観て「兄貴書けるんだ」って思ったんじゃないんでしょうか(笑)。

――『くまちゃん』の発端ていうのは。

小中：発端ていうのは別になくて、製作会社から和哉とラヴコメみたいのをやりたいって話が来たんじゃないんですかね。なんで『くまちゃん』になったのか今となっては定かでないんですけど。
　私たちが子供の頃から作ってきた“くまちゃん”ってキャラクターはＳＦ的なキャラなんですよ（注：小中さんは和哉さんとともに“くまちゃん”を主人公にした自主映画を何本か製作している）。映画『くまちゃん』のような物をずっとやってきたわけではなくて。あれはウディ・アレンとかスティーヴ・マーティンとかが好きだったんで、あの頃のホロ苦コメディみたいなものをやる上でのトリックスターとして“くまちゃん”を入れようかっていう発想だったんで、実はキャラクターとしての“くまちゃん”ありきではなかったんですよ。

――この作品ではもちろん現場にはずっといて共同作業で。

小中：いや、現場に行ったのは１回か２回です。もちろんプリプロダクションはとことんやりましたけど、現場は私はノータッチです。音楽もちょっとやっているんですけど、それもフィルムが上がってから「こっからここね」っていう感じで。
　ある時期から意識的に現場に行かないようにしてるんですよ。行っても脚本家って居場所ないんですよね。「なんでこんなの書くの？」って文句言われることもあるし(笑)。やっぱり現場は現場スタッフの物であり役者さんの物で、脚本家はその前の段階をやってる仕事だからそこを徹底しようという感じですね。
　ゼロ号試写とかもあまり行かなくて、初号ぐらいで初めて観るか、あるいは公開始まってからお客さんと一緒に観るとか、自分としてはそういう風に観たいなっていう気分が強いですね。
　和哉との仕事は『ディフェンダー The Defender』以来途絶えちゃってて、なにしろ90年代ウルトラシリーズっていうのを二人ともやっていながら、１回も一緒にやっていないのはやっぱり異常っていうかね。現実の制作状況を考えたら無理だったっていうのはあるんですけど、やっぱり二人でなかなかできないのはちょっと淋しいなあっていうのはあって。
　今、ある作品でちょっと一緒にやってはいるんですけど、それは兄弟作品ていうのじゃないし、またやりたいですね。

――これからの作品についてお聞きしたいんですが、ビデオ作品の『マリス・ドール』が劇場公開されるそうですね。

小中：そうですね。上映形態とかちょっとまだ良くわからないんですけど。
（注：2001年春よりオリジナルビデオとして全３巻で発売予定。劇場公開は未定）

――これはどういう作品になるんでしょうか。

小中：まず３ＤＣＧでちょっとエロティックなホラーをっていう依頼があって、会社側の企画としてはヴァーチャルアイドルみたいなのをやろうっていうことだったのかなあと思うんですけど、それで１時間半の物をやり切るのは難しいなっていうのがあって。
　それでもうちょっと人工的でＣＧでなければ描けない世界なりキャラクターなりにした方がいいんじゃないかという提案をして、お人形さんっていうモチーフにしたんです。
　私はチェコのトルンカとかその辺が好きだったし、クエイ兄弟の『ストリート・オブ・クロコダイル』を監督に見せて「こういうノリですよ」って言って書いた脚本なんですよ。だから物語があってというよりは、どっちかっていうと雰囲気物という感じかなあ。

――最近はウェブサイトで自作のドールを公開されたりもしていますが、やはりその趣味が発想の元になっているんですか。

小中：いや、企画はもうちょっと古いっていうか、もちろん既に人形を買い始めていた頃だとは思いますけど、そんなに人形が趣味っていうほどではない時に作った物だったんですよ。脚本ももう去年書いてしまっていて。

――アニメ雑誌の『ＡＸ』で連載もなさってましたが、あれとは別のストーリーなんですか。

小中：あれとは全然関係ないです。

――人形が主人公のストーリーになるんですか。

小中：人形っていうか、ほんとに機械人間みたいなのと人間に極めて近しいキャラクターとかが全部イーヴンでそこでいるというひとつの世界観というような…うーん、『マリス・ドール』ってね、説明しにくいんですよ(笑)。
　もう観てもらうしかないんだけど、みんな３ＤＣＧって言った時点でちょっと引いちゃうんですよね。観てもらえたら絶対納得してもらえると思うんですけど構えがね。でも内容は自信はありますよ。

――他に現在進行している作品で差し支えないものがあれば。

小中：『ウルトラマンガイア』のスペシャル版っていうのが来年の２月発売でビデオで出ます。実はやるかどうか悩んだところもちょっとあったんです。でも企画としてできているならやろうって。
　久々に書いてみると、やっぱり大変だったんですけど『ガイア』のキャラクターも勝手に喋ってくれるみたいなところがあるし。

――『ガイア』のビデオ版はＴＶシリーズの後日談になるんですか。

小中：そうですね。『ガイア』ってきちんと最終回はやりましたけど、あれで破滅招来体がいなくなったっていう話は全然してないわけで、続きをやりやすいシリーズではあるんです。ただ同じことを繰り返しても新しい物は作り得なくなっちゃうわけだから、簡単ではないんですけれど。
　『ガイア』の主人公たちっていうのは、私がそうしたかったって事もあるんですけど、若いっていうか子供っぽいキャラクターなんで、若者らしい悩み方っていうのがメインになるかな。『ガイア』を愛してくれたファンの人全てが納得できる物っていうのは難しいですけど、自分なりには。

――それ以外の作品では。

小中：映画としては実写作品とアニメーション作品ていうのが一応予定されています。ＴＶシリーズも来年以降のアニメーションもいくつか始動していて、まあ可能な限り映画もやって行きたいなとは思っていますね。

――ほかに実際に進行している物以外にやってみたい作品とか、暖めている企画などはありますか。

小中：弟とジュヴナイルとしての怪獣映画っていうのはやりたいなと思っています。実は1995年の『ガメラ』の時に最終的にキャンセルされてしまった脚本があるんですけど、ハードなポリティカル・フィクションの怪獣映画もいいけど、昔あったようなジュヴナイルとしての怪獣映画もあっていいんじゃないかと思っていて、それはやりたいとずっと思っています。
　いつかやります。それは。