鹿島勤監督インタビュー(7)

新沼：『今日から俺は』の次は『いちご同盟』ですよね。

鹿島：そうです。『いちご同盟』はプロデューサーの青木さんから原作を渡されて「読んでみなよ」って言われて、読んで「いいですねぇー」って。言ったのは撮る３年４年前ですよ。
それで「お金がないんで脚本お前書けるんだから自分で書いて、脚本があれば撮ることが出来るかもしれない」っていうんで。脚本自体は撮る３年前くらいに書き上がっていたんですよ。

新沼：これ原作っていうのは岩国の設定なんですか？

鹿島：町田あたりの設定だと思います。
東京のちょっと郊外っていう、東京都下っていう感じだったんです。

新沼：監督が脚本書かれたときは、岩国あたりの設定だったんですか？

鹿島：その時はそこまで細かく原作どおり東京のっていうか大都会の郊外のあたりの話なのかなって思ってたんです。
で、丁度これを撮る前の年に名古屋だ新潟だってところで自殺騒ぎが立て続けに続いた事件があったじゃないですか中学生の。そのニュースを見てたときに、最初名古屋だっていうんで名古屋市内かと思ったら農村風景みたいなところだし、昔の大農家の息子だったりっていう。こっちから見ると“こんなところで起こるのかって、昔は考えられないな”って“そこまで日本も来ちゃったのか”っていうのがあって。むしろ大都会の方が大人がそんなの当たり前になってたせいか渋谷あたりのジベタリアンとかあぁいうのが流行ってた頃なんだけど、あぁいう人達もそれなりに楽しそうに（大人があんまり何も言わないから）。むしろ都会の方が受験とか他のことに悩んで自殺するってことはなくて、受験から落ちこぼれたのはそれなりに渋谷とか原宿とかでエンジョイしちゃってるんで…。もう都会の話じゃないなっていう。むしろ、もう少し息詰まってる地域社会の目が行き届いてるっていうかそういうところで実際にこういう事件が起こりだしてきたんで。そっち側でやった方がリアリティーがあるんじゃないかというのがあって、岩国から郡上八幡っていう町を撮ってみたいなと思っていたんで。どっちかっていったら岩国につてがあって。

新沼：岩国で撮りたいっていうのは監督の想いが何かあったんですか？

鹿島：旅の資料を見てたんですよ。古いところが残っていて新市街がこっち側に出来ちゃってるみたいなさ、そいういう町がいいなぁって思ったんですよ。

新沼：錦帯橋は、時代劇によく出てきますよね。
あれはあそこだけしかないんですか？

鹿島：錦帯橋は台本にはなかったの。岩国市が協力してくれるっていう中で錦帯橋を撮ってくれっていうんで、あれはそのためにたしたシーン。台本ではただの川のイメージの橋だったんだけど。それじゃ、錦帯橋がいいかって。それはそれなりに錦帯橋っていう形状をうまく使ったと思うんでよかったと思ってます。

新沼：時代劇しか見たことないんで現代で橋の向こうに民家があるっていうのは、「あぁこういうところにあるのか」っていう、今までのイメージとして何もないところに橋があって川があってっていうイメージとしかとらえてなかったから、新鮮でしたね。

鹿島：そうですね、時代劇のようには撮りたくないっていうのが。「橋全体を見せなくてもいいならいいですよ」っていうことで。

新沼：何か考えさせる味わい深い作品ですよね。

鹿島：一挙に変わったんですよね、作品が。

新沼：冒頭にも話しましたけど監督の質として“やさしさ”っていうのが（愛情）があるから『静かなるドン』にしても『悪役パパ』にしても一貫して流れてるんじゃないかという気がするんですよね。役者さんもお馴染みの方が出てきてるし。

鹿島：そう、それは認めますよね。
バリバリヤクザもんみたいなの多分僕は撮れないと思う。凶悪犯っていうかホントの極道っていうのは。

新沼：『静かなるドン』も一種のパロディー

鹿島：っていうか、僕が撮るとみんないい人になっちゃうっていう批判もある、ヤクザさえも。実際はね、彼らだって家庭に帰ればお父さんやってるわけでそっち側の方が面白いっていう、外で立場上片意地はってるっていうとらえ方しちゃうから。

新沼：お父さん、お母さんで古尾谷雅人さんと鹿沼えりさんが別々に出てるっていうのはたまたま偶然ですか？どっちが先に決まったんですか？

鹿島：鹿沼さんが先じゃないかな、意識した訳じゃなかったです。
古尾谷さんが丁度『金田一少年の事件簿』に出てて、子供達がよく知ってるだろうって。そういう年代が知ってる役者さんの方がいいんじゃないかっていうんで古尾谷さんに出て欲しいって。

新沼：鹿沼さんっていうのは、この頃女優として復帰されてたんですか？

鹿島：えぇーっと。したばかりだったかな。復帰して何本目かだと思いますよ。

新沼：主役３人の子っていうのは、オーディションですか？演技経験は？

鹿島：そうです。岡本とピアノの大地っていうのは蜷川さんの舞台に出たことあるっていうくらいだったと思う。野球の少年は、まったく本当に野球の少年だから。

新沼：すごく素朴な感じでいいですね。大地さんっていうのは経験あるんでしょうけど、それでも自然な演技でまるっきり素人っぽいような演技してますよね。

鹿島：それは、野球の少年が引っ張ったのかな。やっぱり実際の自分が…彼自体あぁいう奴なんですよ、野球って事に関してね。だから説明しなくてもそこだけはわかっちゃうっていうんですかね。やっぱり野球やってて本当に負ける悔しさを彼は実生活の中で味わってて、本当に自分はプロになりたいっていうことのために野球やってたから。

新沼：谷口っていう子は当時何歳ですか？

鹿島：えーっと中2です。全員中2だったんですよ。谷口は今年の春の大会に行ったって言ってたから出るかなって一応思ってるんだけど、3年生だから。

新沼：じゃ、まだ実際にやってて野球を。

ヒマワリ：『いちご同盟』って原作は教科書に出てたんですか？

鹿島：今はもう出てないらしいけど、あの当時は出てたらしいです。
選定みたいになってたらしい。

ヒマワリ：映画公開の時に行けなかったので原作先に読んだんです。原作も映画も同じトーンだけど、半ばあたりまで何のことない青春ドラマなんだけど後半になると感情が高ぶって涙が出てくるんで、これは何なのって感じで。映画もそうなんですよね、出だしはドキュメンタリータッチでわりと素人臭い感じがするんだけど後半に高まっくるっていうのがありますね。

新沼：逆境でね、逆転じゃないけど満塁ホームランですか打たれるシーンなんかもう、泣けちゃいますよね。

鹿島：あれは、彼らが実年齢に近かったっていう普通の子だったから。彼らなりにあの野球の少年は野球で高校に行くしかないって子だし、ピアノの少年はピアノが好きでやってたけどピアノじゃ無理だろうってことがあって。ただ唯一違うのはあいつ頭がよかったんですよ大地は。実際小石川高校行ったように、それだけかな違いは。だから、悩みとしてわかったみたいですね。こっち側が説明する事に対して。台本を読んで自分がそう思わなかったら言ってくれって言ったんだけれども。台本の中で「ピアノをラクに弾きたくないんだ」ってセリフを書いたんですよ僕が。で、スタッフからは「こんな事中学生は思わない、むずかしすぎる」って直した方がいいって言われてたんだけど、「じゃまぁ、役者がそういう風に“わかんない”って言われたなら考えるよ」って。それを大地に決まって初めて読ませて「どのセリフが1番共感できた？」って聞いたらそのセリフだったんですよ。「ラクに弾きたくないんだ」っていうのは非常によくわかるって自分もそう思うって言ったから、スタッフはみんな黙っちゃって。僕自身も正直それは意外だったの、そのセリフが出てくるとは思わなかったから、こっちは想像して書いただけだからさ。「お前、ホントにあれわかるの？」って言ったらさ「あれが１番素直にわかりました」って言われて。それもあって“あっコイツでいけるかな”っていうのを感じましたね。自分達のことは忘れちゃってるけど中学から高校の時って自分達もこんなに真剣に考えたのかなって気がしたけど。

ヒマワリ：中学から高校ってむずかしいものがけっこう自慢っていうか…。
大人になりかけの頃だから、ラクに生きちゃうタイプってそりゃいるかもしれないけど“悩むのが仕事”じゃないけど、自然に悩んじゃうっていうか、物事をなるべく難しく考えちゃう年頃。

鹿島：それは、あるね、哲学的に物事を考えるっていうね。

ヒマワリ：私、中学の頃「悩みが多い」って話をしたら「あんたはいいわね、私は毎日のようにテスト受けてる感じだから」って言われて…

鹿島：それは、非常によくわかるね、この年になってね。
僕もこの年になって遅いって言われるかもしれないけどホントそう思うね。“悩んでいられるうちはいいなぁ”って。

ヒマワリ：決めなきゃいけないですからね。

鹿島：そう、悩んでられないからね。
俺自身の経験からいうと勉強で苦労したことあんまりないんで中学の時要領よくって勉強出来ちゃってたから…。最初原作読んだとき“えーっこんなことあんのかよ”っていうのがあったなぁ。勉強ってことに関しては偏差値なんて悩んだこと…っていうね。

ヒマワリ：ピアノの子っていうのは、自殺願望があるんですか？

鹿島：ただ、自殺まで行かないにしても登校拒否っていうことでそういうことをやれたりする場合があるじゃない。“真面目のむずかしさ”だけは何となくわかるなぁっていうのがあったなぁ。

ヒマワリ：親の期待っていうのは、けっこうつらいですよね、一人に集中しちゃうと。

鹿島：いいにしろ、悪いにしろ目立ってる人っていうのはいいんだよね。そうじゃなくて残りの7〜80％の人達が本当はちゃんと努力しててがんばってるんだけど誰にも脚光をあびてないし、話題にもならないってさ、そっち側の映画が１本くらいあってもいいんじゃないかって。だから、変な話、コギャルがなんだっていうと映画の題材にすぐなるじゃないですか、でも彼女ら自分達が楽しんで目立ってて、マスコミもさ、深夜の番組だとすぐあの辺をとりあげてさ。そうじゃなくて自分達もあぁいう事したいなぁーって気持ちはみんなあると思うのよ、渋谷に遊びに行ったりね、でもそのね、真面目にやってる目立たない側のマスコミにもいっさい取り上げられない残りの7〜80％の中学生に向けて作ろうよって主旨でやったんですよ、この映画。世間でいえば、ド素人の何でもない奴。

ヒマワリ：今考えてみるとこの頃悩んでた男の子女の子達がみんなおかしくなってきてるんですね。

鹿島：でも、僕らの頃もあったよそれは。だけど自殺って形には出てこなかっただけで特に僕の高校の時なんかはね、学園紛争が終わった後に僕たちは入ったからさホントに自由でさ。とにかく出席もとらないんだから行っても行かなくてもいいわけよ、同じなんだからさ。で、何で見るかっていうとテストの点がとれてるかとれてないかだけだから。最初のうちはラクでいいなって思ってたの。テストの点適当に落第しないようにとっておけば進級できちゃうんだから。だから、高校半分くらいしか行ってないと思う。、でも無遅刻無欠席なわけだからさ。
で、２年になったときに元クラスメイトで（あの頃都立高校って私服だし。帰私服じゃないと渋谷に行って遊べないからさ）詰め襟をキチッとしめてホックもしめてって世界でさ、こんな分厚い学生鞄で教科書も辞書も全部鞄につめてさ（僕なんか手ぶらで隣のクラスと同じ授業なんてないわけだから隣のクラスの奴に借りりゃあいいって、教科書なんて家にみんな置いておきゃいいって）僕はそいつが頭がいいって思ってたんですよずっと。２年になってクラス分かれたときにそいつが登校拒否になったって聞いて“なんで？”って“あんな真面目な奴が…”。よくよく聞いたら落第寸前の成績だったって、結局２年で登校拒否になって落第しちゃったんですよ。僕は３年になって向こうは２年でそしてまた相変わらず出てきたら学生服に分厚い鞄持ってて…。だから、それは彼等は頭に来るっていうか、何のために学校に出てるんだっていうのがあるだろうなって。僕たちなんか半分行かないわけだからさ。矛盾感じて辞めていくっていうかさ。
これを撮った年にもいってたけど止めてくれるっていうのがお前達は幸せだなって僕たちの頃は止めてくれなかったから不良になっちゃってる奴もけっこういるし本当のね。僕たちも最初は「そこまで行っちゃうとヤバイよ」って止めてたけどやっぱり止めきれないわけだよ。自分はそこまで行きたくないわけだから。そこで学校が今みたいに止めるっていうのはやさしい社会だなっていう気がするけど自由がないっていわれる反面ね。大人達がこんなに手を引っ張っていってくれる世の中は違った目で見れば甘やかしてるよね。だから『いちご同盟』の中でもそれはあえてやんなかったんです。
ある種、僕たちの時代的な考え方であると思うんですよね。これで、ピアノの少年は野球の少年とか病気の彼女に会わなかったら、彼は落ちて行ったんだろうけど、そこはある種映画の中のウソだと思うんです。リアルだったら止められないの、だいたい自分のことがあるからそれこそ学校とかが言わない限り。こんな風に出会えないもんね、こんな状況に陥ってる女の子なんかにね。だからなんかね、『いちご同盟』だけが違う作品にみられるのは僕からするとよくわかんないです。

新沼：いやーっまったく同じだなぁと思ってね。

鹿島：そうなんですよ、作風が違うだけで。